top of page

魔法の王国コインランド 第一周 その1 はじまりは突然に(2)


ree

 

 近くにきた男は、布を拾って少しはらい、桶の中に戻すと、軽くワタシの頭をなでた。

「ミー?(これは一体?)」

 え~?ミ~って言った?ワタシが?

「どういたしまして。でもこのままじゃいつまでたっても洗濯終わらないね」

「ミー、ミー?(てゆーか、通じてない?)」

「やっぱりそうか。もう仕方ないよな。なんとかするしかない。この魔王アクテンコー…」

 男は、何かを決意したようにつぶやくと、どこまでもどんよりが続く空を見上げていた。

 アクテンコー…。そう言えば聞き覚えがある。確か洗濯機の中に吸い込まれた時、落ちていく感覚の間、誰かの声が聞こえていた。

 …スクッテ…マオウアクテンコー…スクッテ…


「怖いけど、やっぱり行くしかない。あの謎の王国に」

 男はそう言うと、フ抜けたように見つめるワタシに向き直った。

「君も行くぞ、タスカル君。勇者テンチョーの頼れる相棒。てゆーか、お願い。一人だと…」

「ミ~(もじもじするんやない~)」

 状況はさっぱり飲みこめないが、この姿のせいか、どうとでもなれという気分になってきた。

「それで、それで。そこで仲間を見つけてぇ、魔王アクテンコーを倒してもらう。どう?」

「ミー、ミー!?(ひとまかせか、てゆーか…勇者!?)」

「じゃぁ、ちょっとお着替えしてくるから」

 いろいろ謎だらけの状況で放置されながら、習性なのかなんなのか、思わず洗濯をしながら待っている。なんなのワタシ。


 しばらくすると、勇者テンチョーと名乗った男は、孫にも衣装という感じで戻ってきた。それはまさに中世そのもの。ただ身に着けていたその防具は、やけに純白に輝いていた。

「漂白したら、白くなっちゃった。テヘペロ」

 なんだか、すごく、途方に暮れた。

コメント


この投稿へのコメントは利用できなくなりました。詳細はサイト所有者にお問い合わせください。
bottom of page