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魔法の王国コインランド 第一周 その1 はじまりは突然に(1) 


魔法の王国コインランド1

ゴゴゴゴガガガガゴンガンゴンガン…

「あれ、寝てた?」

 深夜のアパート。轟音に起こされ、マリは突っ伏していたテーブルから顔を上げた。

「ン、あれは~ヤバイやつ」

慌てて口元のぬるぬるを軽く手首で拭うと、立ち上がって洗面所に向かう。

「ごめん、ごめん、片寄ってたか~」

 洗濯機に声をかけながら、マリは急いでフタを開けた。

「アレ?」

 片寄っているどころか、洗濯物すらない。中はどこまでも深く広い漆黒の闇。

「エッ、エェ~」突然闇からの渦巻がマリの身体を包むと、悲鳴もろとも洗濯機に吸い込んでいった。

 バタン。マリの消えた洗濯機は勢いよくフタを閉め、シュルシュルと気持ちイイ音を立てて洗濯を始めていた。


 エッ、エェ~ッと。アレ?これは?なにか洗ってる?ただ、自分の手とは思えないほどちっちゃいし、毛深い。手をとめて顔を触ると、これもさわさわと毛の感触。まてまてまてぇい。慌てて洗い桶に浸かっている布をつまむと、桶の外に投げ出す。深呼吸して、落ち着いてきた水面を覗いたそこには。

「お~い、タスカル君」

 男の声に振り返ると、ぼや~っとしているが、なんとなく腰をかけヒザに頬杖をついている感じの姿が見えた。

「洗濯物、汚れちゃうよ~」

 そう言って、近づいて来た時、ようやく姿がはっきりしてきた。欧米風?それも映画のロード・オブ・ザ・リングとかで見た中世的な感じ?

「なんかボーっとしてるけど、大丈夫?タスカル君」

 タスカル君?それがワタシの名前か。聞いたことがあるようなその名前と、さっき見た水面のあの顔は…アライグマ?ワタシがアライグマ?マジで?アライグマになって洗濯している?マジで?

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